12. CR結合2段増幅回路

CR結合2段増幅回路は、コンデンサ\(C\)と抵抗\(R\)で結ばれた2つの増幅段から構成される回路である。この回路は信号の増幅と周波数の特性を制御するために使用される。CR結合は、直列に接続されたコンデンサと抵抗によって構成され、信号の直流成分を遮断し、交流信号を伝達する。CR結合2段増幅回路の基本的な構成は以下である。
第1段増幅器(入力段):この段では、入力信号を増幅する。増幅された信号は、直列に接続されたコンデンサ(カップリングコンデンサ)によって次の段に伝達される。コンデンサは、直流成分を遮断し、交流信号を通過させる。
第2段増幅器(出力段):第1段の出力が、第2段の入力として供給される。この段階でも再び信号が増幅される。出力信号は、同様に直列に接続されたコンデンサによって次の段階に伝達される。
このような構成により、CR結合2段増幅回路は、直流成分を遮断し、交流信号の増幅する。コンデンサと抵抗の値は、回路の特性を調整するために適切に選定する。この回路の基本構成は、特にオーディオアンプやラジオなどの音響機器に広く用いられている。また、テレビやレコーダーなどの放送機器や、オシロスコープや電圧計などの測定機器にも使用される。(実用的にはIC化された部品を使用することが多い。)

CR結合2段増幅回路の例と等価回路

図1がCR結合2段増幅回路の基本回路図である。\(Tr_1\)による増幅回路が第1段、\(Tr_2\)による増幅回路が第2段で、両方ともバイアス回路は、電流帰還バイアス回路である。\(C_1\)は入力信号\(v_i\)と第1段を交流的に接続するためのカップリングコンデンサ、\(C_2\)は第1段で増幅した信号と第2段を交流的に接続するためのカップリングコンデンサ、\(C_3\)は第2段で増幅された信号の交流分を出力\(v_o\)として取り出すためのカップリングコンデンサである。また、\(C_{E1},\; C_{E2}\)は第1段、第2段の増幅度を低下させないためのバイパスコンデンサである。

図1 CR結合2段増幅回路

カップリングコンデンサ\(C_1,\;C_2,\;C_3\)、及び、バイパスコンデンサ\(C_{E1},\;C_{E2}\)のリアクタンス(交流的な抵抗成分)を交流に対して0と仮定し、コンデンサと電源\(V_{CC}\)部分を短絡して、BJT部分に簡易等価回路を適用すると図2「CR結合2段増幅回路の簡易等価回路」が得られる。

図2 CR結合2段増幅回路の簡易等価回路

 図2の等価回路が示すように、1段目の実効負荷抵抗\(R_{L1}\)は見かけ上の負荷抵抗\(R_{C1}\)に2段目のバイアス抵抗\(R_{AB}\)(\(R_{A1},\;R_{A2}\)の並列抵抗)と\(Tr_{2}\)の入力抵抗\(h_{ie2}\)が並列に接続されていることになり、見かけ上の抵抗値より小さくなる。そのため、一般に、増幅回路を次段に接続することで、接続前より増幅度の低下が起こることになる。
1)1段目の増幅度\(A_{v1}\):1段目の負荷抵抗\(R_{L1}\)は、$$R_{L1} = \frac{1}{\frac{1}{R_{C1}} + \frac{1}{R_{AB}} + \frac{1}{h_{ie2}}} \\ A_{v1} = -\frac{h_{fe1}}{h_{ie1}} R_{L1}$$増幅度の負号は、1段目の出力が入力\(v_i\)に対して逆相になることを示している。
2)2段目の増幅度\(A_{v2}\):$$R_{L2} = R_{C2} \\ A_{v2} = -\frac{h_{fe2}}{h_{ie2}} R_{L2}$$2段目の入力に対して2段目の出力\(v_o\)が逆相になるから負号がつく。
以上から、回路全体の増幅度\(A_v\)は、$$A_v = A_{v1} A_{v2} = \frac{h_{fe1} h_{fe2}}{h_{ie1} h_{ie2}} R_{L1} R_{L2}$$となる。入力信号\(v_i\)に対して1段目の出力(2段目の入力)が逆位相、さらに2段目の出力で逆相になるため、出力信号\(v_o\)は入力信号と同相になる。
増幅度の式からわかるように、増幅度はBJTの特性\(h_{fe}, \;h_{ie}\)に大きく依存する。しかし、一般に、BJTの特性は個体毎のバラツキが大きく、温度による特性の変動も大きい。そのため、多段増幅回路を使用する場合は、通常、負帰還回路を付加して使用する。負帰還回路については別項で説明する。

LTspiceによる動作シミュレーション

表1に各素子の設計値を示す。なお、BJT(\(Tr_1,\; Tr_2\))には小信号用の2N2222(2SC1815の代替品)を使用する。これらの設計値を基にして、LTspiceにより動作のシミュレーションを行う。

$$R_{B1}:120 \; k\Omega$$$$R_{B2}:27 \;k\Omega$$$$R_{C1}:10\;k\Omega$$$$R_{E1}:2.2\;k\Omega$$$$C_1:10\;\mu F$$$$C_{E1}:220\;\mu F$$
$$R_{A1}:47 \; k\Omega$$$$R_{A2}:8.2 \;k\Omega$$$$R_{C2}:4.7\;k\Omega$$$$R_{E2}:1\;k\Omega$$$$C_2:10\;\mu F$$$$C_{E2}:220\;\mu F$$
$$C_3:10\;\mu F$$$$Tr_1,\;Tr_2:2N2222\\(2SC1815代替品)$$$$V_{CC}:12\;V$$$$R_L:1\;M \Omega$$
表1 部品一覧

図3がLTspiceで描いた「CR結合2段増幅回路」である。全体の増幅度は約9000倍となるため、\(v_o\)に対して\(v_i\)は非常に小さい。このシミュレーションでは、入力信号\(v_i\)を振幅 \(200\;\mu V\)、周波数 \(1\;kHz\)の正弦波とした。出力信号は負荷抵抗\(R_L\)の\(v_o\)部分を観測する。
図4がシミュレーション結果の\(v_i ,\; v_o\)である。\(v_i\)青線に対して\(v_o\)は凡そ9300倍となっている。位相は1段目の出力で逆相(位相が180度ずれる)になり、2段目の出力でさらに逆相となるため、\(v_i\)と\(v_o\)は同相となることが示されている。なお、出力\(v_o\)の若干の歪と中心のズレはバイアスの影響とBJTの非線形性特性によるもので、入力信号\(v_i\)が小さければ問題とならない。このシミュレーションでは、歪を生ずる最大の入力信号近傍にしている。これ以上入力信号\(v_i\)を大きくすると、各増幅器で飽和を起こし、出力信号は大きく歪むことになる。
図5のシミュレーション結果は、カップリングコンデンサ\(C_1,\;C_2,\;C_3\)に流れる電流である。赤線が\(C_1\)の電流、青線が\(C_2\)の電流、緑線が\(C_3\)の電流である。この図から、1段目、2段目で位相が逆相になることが分かる。
以上のようにLTspiceを使うことで、各部品での電流や電圧を詳細に観察でき、設計の妥当性を詳細に検証することができる。

図3 CR結合2段増幅回路(LTspice)
図4 シミュレーション結果
\(v_i\):青線、\(v_o\):赤線
図5 シミュレーション結果
カップリングコンデンサ部分の電流
\(C_1\):赤線、\(C_2\):青線、\(C_3\):緑線