9. BJTのバイアス回路

BJT(バイポーラトランジスタ)のバイアス回路とは、BJTが適切な電流や電圧で動作するようにするための回路である。BJTは、ベース・エミッタ間に一定の電圧\(V_{BE}\)をかけることで、コレクタ・エミッタ間に電流が流れる。この\(V_{BE}\)で動作点が設定でき、動作点を決めるベース・エミッタ間の電圧\(V_{BE}\)を「バイアス電圧」、ベースに流れる電流\(I_B\)を「バイアス電流」と呼ぶ。
バイアス回路は、BJTに適切な動作点を設定してBJTの動作を安定にする役割がある。また、適切なバイアスにより、BJTの消費電力を抑えることができる場合もある。
BJTの動作点とは、ベース・エミッタ間の電圧とベース電流(\(V_{BE} , \; I_B\))コレクタ・エミッタ間の電圧とコレクタ電流(\(V_{CE} , \; I_C\))の組み合わせのことで、BJTが最も効率的に動作する動作点は、コレクタ電流\(I_C\)が最大になるように設定するのが一般的である。
バイアス回路には、2電源方式、固定バイアス回路、自己バイアス回路、電流帰還バイアス回路、などがある。バイアス回路は、BJTを使用する回路の基本的な構成要素であり、BJTを効率よく正しく動作させるためには、適切なバイアス回路を設計する必要がある。以下に基本的な各種バイアス回路を説明する。

二電源方式

二電源によるバイアス回路を使った増幅器については、「8. エミッタ接地増幅回路の動作」において、その詳細を説明した。
図1に示す「二電源方式によるバイアス回路」では、入力側のB(ベース)と出力側のC(コレクタ)にそれぞれ独立した電源(\(V_{BB} ,\; V_{CC}\))を接続している。
二電源方式のバイアス回路は、各々の電源でバイアス電圧を決められるので、自由度が高く、簡単であるが、電源が2つ必要なためコストや小型化の点で不利である。
図の\(C_i\)は、カップリングコンデンサで交流を通して、直流をカットする働きがあるので、入力電圧\(v_i\)を増幅した電圧信号\(v_o\)のみ出力端子に現れる。

図1 二電源方式によるバイアス回路


固定バイアス回路

固定バイアス回路では、図2「固定バイアス回路」に示すように、電源電圧\(V_{CC}\)の電圧を抵抗\(R_B\)で降下して、バイアス電圧\(V_{BE}\)を得る。
図2より、$$V_{RB} = V_{CC} - V_{BE}$$また、\(V_{RB} = R_B I_B\)なので、$$R_B = \frac{V_{RB}}{I_B} = \frac{V_{CC} - V_{BE}}{I_B}$$となるので、動作点の\(V_{BE}, \; I_{B}\)を決定することで、バイアス回路に使用する抵抗\(R_B\)を設計できる。
この回路は、最も単純なバイアス回路であるが、BJTの\(h_{FE}\)(BJTのベース電流とコレクタ電流の比)のばらつきや温度による変化によって、動作点が変化する可能性があり、実用性に問題がある。

図2 固定バイアス回路

自己バイアス回路

自己バイアス回路の例を図3「自己バイアス回路」に示す。BJTのコレクタ・エミッタ間電圧\(V_{CE}\)をベースバイアス抵抗\(R_B\)で電圧降下することにより、ベースのバイアス電圧\(V_{BE}\)を得る。つまり、出力側の電圧\(V_{CE}\)を入力側の電圧\(V_{BE}\)にフィードバックしてバイアス電圧を自動調整する(バイアス電圧の変動を抑制する)ようになっている。このため、電圧帰還バイアス回路ともいわれる。

図3 自己バイアス回路

抵抗\(R_B\)の端子間電圧を\(V_{RB}\)、抵抗\(R_C\)の端子間電圧を\(V_{RC}\)とすると、$$V_{CC} = V_{RC} + V_{CE} \\ V_{CE} = V_{RB} + V_{BE}$$なので、$$V_{CC} = V_{RC} + V_{RB} + V_{BE}$$さらに、\(V_{RB} = R_B I_B\)より、$$R_B = \frac{V_{CC} - V_{RC} - V_{BE}}{I_B}$$また、抵抗\(R_C\)に流れる電流は、\(I = I_B + I_C\)であるが、\(I_B\)は\(I_C\)に比べて非常に小さい(一般に1/100以下)ので、\(I \approx I_C\)としてよいので、\(V_{RC} \approx I_C R_C\) と表せる。従って、$$R_B = \frac{V_{CC} - I_C R_C - V_{BE}}{I_B} \;\;\; I_C = h_{FE} I_B$$となる。つまり、入力側の動作点(\(V_{BE},\; I_B\)と出力側の負荷抵抗\(R_C\)を基にバイアス用の抵抗\(R_B\)を設計できる。また、\(V_{RB} = V_{CE} - V_{BE}\)なので、$$R_B = \frac{V_{RB}}{I_B} = \frac{V_{CE} - V_{BE}}{I_B}$$となる。この場合、入力側の動作点(\(V_{BE},\; I_B\)と出力側の動作点\(V_{CE}\)からバイアス用抵抗\(R_B\)を設計することになる。
自己バイアス回路では、例えば、BJTの温度上昇により\(I_C\)が増加しようとすると、\(V_{RC}=R_C I_C\)なので\(V_{RC}\)が増加し、\(V_{CE} = V_{CC} - V_{RC}\)より、\(V_{CE}\)が低下する。\(I_B =\frac{V_{CE} - V_{BE}}{R_B}\)なので、\(V_{CE}\)の低下に伴い、\(I_B\)が減少する。\(I_C = h_{FE} I_B\)なので、結局、\(I_C\)は減少する方向になる。つまり、 自己バイアス回路は、コレクタ電流\(I_C\)の変動をベース電圧\(V_{BE}\)(結果としてベース電流\(I_B\))の変化としてフィードバックすることで、変動の影響を抑えることができる。以上より、自己バイアス回路は、固定バイアス回路に比べてバイアス安定度が高い、つまり動作点の変動を小さく抑えることができるという利点がある。

電流帰還バイアス回路

電流帰還バイアス回路の例を図4「電流帰還バイアス回路」に示す。図のように、電源電圧\(V_{CC}\)を抵抗\(R_{B1}\)と\(R_{B2}\)によって分圧した電圧\(V_{R_{B1}}\)と\(V_{R_{B2}} \)を得る。この際、分圧電圧に影響しないように、\(I_B\)に対して\(I_{B_1}\)が十分に大きくなるように抵抗\(R_{B1}\)と\(R_{B2}\)を決める。
また、\(V_{R_E}\)は、エミッタに挿入した抵抗\(R_{E}\)によって、\(V_{R_E} = R_E I_E\)として得られ、\(I_E \approx I_C\)なので\(V_{R_E}\)はコレクタ電流\(I_C\)によって決まることになる。従って、バイアス電圧\(V_{BE}\)は\(V_{R_{B2}}\)と\(V_{R_E}\)によって得られることになる。このような回路を電流帰還バイアス回路という。

図4 電流帰還バイアス回路

バイアス電圧は、$$V_{BE} = V_{R_{B2}} - V_{R_E}$$である。図4の回路では、以下の式が成り立つ。$$V_{R_{B2}} = R_{B2} I_{B_2} = V_{BE} + V_{R_E} \\ V_{R_{B1}} = R_{B1} I_{B_1} = R_{B1}(I_B + I_{B_2}) = V_{CC} - V_{R_{B2}} \\ V_{R_E} = R_E I_E = R_E(I_C + I_B) \approx R_E I_C$$以上より、抵抗\(R_{B2} , \;\; R_{B1}, \;\; R_E\)は以下のように設計できる。$$R_{B2} = \frac{V_{R_{B2}}}{I_{B_2}} = \frac{V_{BE} + V_{R_E}}{I_{B_2}} \\ R_{B1} =\frac{V_{CC} - V_{R_B2}}{I_B + I_{B_2}} = \frac{V_{CC} - V_{R_E} - V_{BE}}{I_E + I_{B_2}} \\R_E = \frac{V_{R_E}}{I_E} = \frac{V_{R_E}}{I_B + I_C}$$一般に、\(V_{R_E}\)の大きさは、\(V_{CC}\)の10~20%程度に、また、ベースブリーダ電流\(I_{B_2}\)は\(I_B\)の10倍以上になるように\(R_{B1} ,\;\;\; R_{B2}\)を設定する。
電流帰還バイアス回路の場合、温度上昇などにより\(I_C\)が増加すると、\(I_E\)が増加し、\(V_{R_E} = R_E I_E\)なので、\(V_{R_E}\)が大きくなる。その結果、\(V_{BE} = V_{R_{B2}} - V_{R_E}\)より、\(V_{BE}\)が低下し、\(I_B\)が減少する。\(I_C = h_{FE} I_B\)なので、結局、\(I_C\)は減少する方向になる。つまり、 電流帰還バイアス回路は、コレクタ電流\(I_C\)の変動をベース電流\(I_B\)の変化としてフィードバックすることで、変動の影響を抑えることができる。しかし、このままでは交流信号の増幅度が低下するので、バイパスコンデンサ\(C_E\)を\(R_E\)に並列に接続する。こうすることで、交流的には\(R_E\)と\(C_E\)の並列インピーダンスは0にでき、直流的には並列インピーダンスは\(R_E\)となる。つまり、バイパスコンデンサ\(C_E\)によって、交流にはフィードバックがかからないので、増幅度は低下せず、直流はフィードバックがかかり、バイアスが安定する。

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