5. 整流回路

整流回路は、交流電圧(交流電流)を直流電圧(直流電流)に変換するための回路である。交流は正と負を周期的に繰り返す波形であり、整流回路では、基本的にそのうちの一方向の半周期を取り出し、他方向の半周期をカットする。
整流回路には主に2つのタイプがある。
1.半波整流回路(Half-Wave Rectifier): 半波整流回路は、交流の半周期のうち、片方向のみを通す回路で、一般的にはダイオードを使用して実現する。ダイオードは順方向バイアス(正の電圧がアノード側)の場合には電流を通し、逆方向バイアス(負の電圧がアノード側)の場合には電流を通さない。半波整流回路では、入力をアノード側に接続し、カソード側を出力として使用する。交流入力の正の半周期ではダイオードが順方向バイアスになり、電流が流れ、カソード側から出力される。負の半周期ではダイオードが逆方向バイアスとなるため、電流は流れず、出力はゼロとなる。
2.全波整流回路(Full-Wave Rectifier): 全波整流回路は、交流の正負両方向の半周期を利用する回路で、通常はブリッジ整流回路と呼ばれる回路構成を使用する。ブリッジ整流回路では、4つのダイオードを使用して交流の入力を整流する。ダイオードの配置により、入力の正の半周期では2つのダイオードが順方向バイアスになり、負の半周期では他の2つのダイオードが順方向バイアスになる。その結果、出力信号は入力信号の正の半周期と負の半周期の両方で得られる。このためブリッジ整流回路は半波整流回路と比べて効率が高い。
整流回路は、電源や通信機器などの多くの電子機器で使用される。直流は、電子回路の安定した動作や電力供給に必要なもので、整流回路は交流を直流に変換するための主要な回路である。

半波整流回路

図1「半波整流回路」は、ダイオードを使った半波整流回路の基本回路である。交流電源(AC)をアノード側(A)に接続し、カソード側(K)に負荷抵抗(R)を接続している。この負荷抵抗(R)の電圧が出力となる。
図2「半波整流(LTspice)」は、この回路の動作をシミュレーションした例である。図2の緑線が交流電源の電圧波形である。振幅10 V , 周波数 60Hzである。
図2の赤線がダイオード(D1)抵抗(R)に流れる電流で、正の半波だけ電流が流れている。図2の青線が抵抗R1の両端の電圧である。このように正の半波だけ取り出せることになる。
図2の緑線の振幅より青線の電圧が少し低いのは、ダイオード(D1)の順方向電圧\(V_F\)(シリコンダイオードでは0.7V程度)だけ低下するためである。従って、正の半波で流れる電流は、$$i(t)=\frac{v(t)-V_F}{R1}\;\;\;[A]$$と表せる。

図1 半波整流回路
図2 半波整流(LTspice)

全波整流回路

図3「全波整流回路」は、4個のダイオードを使ったブリッジ整流回路の基本構成である。交流電源(AC)からの正の半波の電圧では、ダイオードD1とD3が順方向バイアス、ダイオードD2とD4が逆方向バイアスとなるため、正の半波の電流(赤矢印)は図の経路で抵抗(R)に流れる。
負の半波の電圧では、ダイオードD2とD4が順方向バイアス、ダイオード、D1とD3が逆方向バイアスとなるため、負の半波の電流(青矢印)は図の経路で抵抗(R)に流れる。
このため、抵抗には一方向に、つまり直流で電流が流れることになる。
図4「全波整流(LTspice)」は、この回路の動作をシミュレーションした例である。交流電源の電圧は、振幅10 V , 周波数 60Hzである。
図4の青線が抵抗R1の両端の電圧である。このように交流の正負両方向の波が取り出せることになる。図4の紫線は、電源電流を表している。この回路の場合は、この電源電流の絶対値が抵抗に流れる電流である。ここで、電流が流れていない部分は、ダイオードにおいて順方向電圧以下のところでは電流がほとんど流れないためである。
また、青線の電圧(抵抗R1の両端の電圧)が入力交流電圧の振幅(10V)より低いのは、ダイオード(D1、D2、D3、D4)の順方向電圧\(V_F\)(シリコンダイオードでは0.7 V程度)の2個分ほど電圧降下するためである。従って、流れる電流は、$$i(t)=\frac{v(t)-2\cdot V_F}{R1}\;\;\;[A]$$と表せる。

図3 全波整流回路
図4 全波整流(LTspice)

平滑回路

整流回路における平滑回路(スムーシング回路、フィルタ回路とも呼ぶ)の主な働きは、入力信号からリップル(波形の変動)を取り除くことである。整流回路は交流信号を直流信号に変換する際、ダイオードを使用して正半周期または負半周期の信号を通すため、出力は一方向の直流であるが図4の青線のように変動する。平滑回路はこの変動(リップル)を減少させ、安定した直流電圧を提供する役割を持つ。
平滑回路は、コンデンサを使用して実装することが多い。コンデンサは電流を蓄積し、電圧を平滑化するため、リップルを抑え平坦な直流電圧に変換する。コンデンサの容量が大きいほど、より効果的にリップルを減少させることができる。ただし、容量が大きすぎると充電時間が遅くなり、過度の電流スパイク(突入電流)を引き起こす可能性があるため、適切な容量の選定が重要である。
平滑回路は、電源供給装置やオーディオアンプなど、安定した電源が必要なアプリケーションで広く使用される。リップルの少ない電圧供給は、他の電子回路や機器の正確な動作や性能を確保するために不可欠である。

 図5 平滑回路の動作(LTspice)

図5「平滑回路の動作(LTspice)」で、青線が抵抗R1の両端の電圧で、平滑回路が入っていないときの電圧、図4の青線と比べるとなだらかな直流電圧となっている。図5の紫線は電源電流を表している。
図5の始めのほう(時間0ms 近傍)では、電圧の変動や電流の変動が大きい。これは、最初コンデンサ(C1)の蓄電量が0、つまり電荷が0なので、突入電流が大きくなるためである。しかし、電流の変化が大きいとインダクタ(L1)の逆起電力が大きくなり、電流の変化を妨げることになる。(基礎電気回路の23. 交流回路におけるインダクタの作用 参照)このように、コンデンサとインダクタの働きにより波形の変動を抑制することになる。
なお、このコンデンサとインダクタによる平滑回路の構成はローパスフィルタ回路(積分回路)となっている。