32. コンパレータによるLC発振回路

LC発振回路はトランジスタを使用してつくるが、100kHz程度であればコンパレータを使用してつくることができる。コンパレータを用いたLC発振回路は、一般的に「矩形波」が必要な用途や、確実に発振を開始させたい場合に採用される。特に低周波〜中周波帯域ではよく使われる構成である。
利点を以下にまとめる。
1)発振の立ち上がりが確実(高ゲイン) :コンパレータは非常に高いオープンループ利得を持っているため、電源投入時の微小なノイズを素早く増幅し、発振を開始する。
2)デジタル回路との相性がよい:出力が「0V~Vcc」の矩形波なので、そのままマイコンのクロック入力やカウンタ回路に接続できる。波形整形用のシュミットトリガ回路を別途用意する必要がない。
3)低消費電力化が可能:ナノパワー・コンパレータを使用すれば、数µA程度の極低消費電力で発振回路を組むことができ、バッテリー駆動機器に向いている。
問題点としては、
・出力が矩形波であるため基本波以外の奇数倍の高調波を大量に含み、オーディオ機器や無線機などの純粋なサイン波が必要な用途には不向き
・コンパレータには伝搬遅延があり、周波数が高くなるとこの遅延が無視できなくなり、計算上のLC共振周波数よりも実際の周波数が低くずれる
・コンパレータの電源ノイズや内部ノイズが出力の切り替わりタイミング(スレッショルド)に影響を与えやすいためサイン波発振器に比べるとわずかにジッタが大きくなる傾向がある
などがある。

動作原理

コンパレータ(比較器)を用いたLC発振回路の動作原理は、「正帰還(ポジティブ・フィードバック)」と「非線形スイッチング」の組み合わせで説明される。主要な構成は、以下の3点である。
・LCタンク回路:\(L\)と\(C\)を並列または直列にしたもの。特定の周波数(共振周波数)でエネルギーをやり取りする。下記の回路例では、水晶振動子(LC等価回路で示す)を使用している。水晶振動子の場合、極めてQ値の高い(ロスが少ない)LC回路として機能する。
・コンパレータ:LC回路の電圧を監視し、基準値より高いか低いかを判定して出力を「H」か「L」にスイッチングする。
・フィードバック抵抗 : コンパレータの出力をLC回路に戻し、エネルギーを補充する。
動作は以下のステップで進む。
1)始動:電源を入れた瞬間、微小なノイズがLC回路に入る。コンパレータはこれを増幅し、出力を「H」または「L」に振り切る。
2)LC共振の開始:コンパレータの出力が変わると、フィードバック抵抗を通じてLC回路に電流が流れ込み(または流れ出し)、コンデンサに電荷が溜まり、ここからLC共振現象が始まる。
3)反転動作:LC回路の電圧がサイン波のように変化し、コンパレータの基準電圧(スレッショルド)を横切ると、コンパレータの出力が反転する。
4)エネルギー補填:反転によって、LC回路の振動を維持するためのエネルギーが注入される。LC回路には抵抗成分があり、振動は減衰するが、コンパレータが毎回反転し、エネルギーを充填することで振動が持続する。

回路例とシミュレーション

図1がコンパレータによる水晶発振回路の例である。水晶振動子の部分はLCによる等価回路で表しており、Lm:2000 H、Rm:20 kΩ、Cm:1.75 fF、Co:5 pFである。水晶振動子は、通常の電子部品(L, C)では実現できない高いQ値(この例では約53,000)を示す。発振周波数\(f\)は、$$f=\frac{1}{2 \pi \sqrt{Lm\cdot Cm}} = 85 kHz$$となる。
図2がシミュレーション結果で、出力電圧\(vo\)(青線)とLmに流れる電流(赤線)を表示している。初期値として、I(Lm)=1 nAを設定し、発振を開始し易くしている。
発振初期は、発振周波数が所望の値になっていないが、\(100 \mu s\)程度で安定な発振周波数(85 kHz)に到達している。
※共振、Q値については、30. 直列共振と並列共振(基礎電気回路)を参照願います。

図1 コンパレータによる水晶発振回路
(LTSpice)
図2 シミュレーション結果の発振波形(青線:出力電圧\(vo\)、赤線:Lmの電流)

※コンパレータ LT1011については、https://www.analog.com/media/jp/technical-documentation/data-sheets/j1011afe.pdf を参照願います。