17-1. オペアンプによる非線形回路(1)
オペアンプ(演算増幅器)に非線形素子を付け加えた回路を考える。非線形素子を含む回路では、非線形素子を折線近似し、その各折線での等価回路で設計を行う。ここでは、その設計例を基にLTspiceで数値解析を行い、その特性を観察する。
リミッタ回路


の折線モデル
図1にリミッタ回路の例を示す。非線形素子はツェナーダイオード\(Z_d\)である。ツェナーダイオードの\(V-I\)特性は、図2に示すように3本の折線で近似できる。電圧\(V\)の変化に伴い折線モデルの①、②、③のいずれかの状態をとる。\(V_T\)は順方向電圧(順方向電圧降下)、\(V_Z\)はツェナー電圧(降伏電圧)である。
1)\(Vi\)が正の十分に高い電圧の場合:\(Vo\)は負の高い電圧となる。また、オペアンプの利得が十分大きいのでオペアンプの入力端子(\(-\))の電圧は\(0\;V\)となる(バーチャルショート)。従って、\(Z_d\)は順方向バイアスとなり、図2の①状態となる。順方向バイアス時の\(Z_d\)の内部抵抗を\(r_f\)とすると、等価回路は、図3,図4となる。図4は、図3からテブナンの定理を使って定電圧形等価回路に変換したものである。この等価回路2より、$$Vo = -\frac{\frac{R_f \cdot r_f}{R_f +r_f}}{R_i}V_i - \frac{R_f}{R_f + r_f}V_T$$となる。
2)\(Vi\)が減少していく場合:このとき\(Vo\)は上昇し\(0\;V\)に近づいていき、遂には\(Z_d\)は図2の②の状態となり電流が流れない状態、等価的に解放状態になる。このときの等価回路は図5となり、$$Vo = -\frac{R_f}{R_i} Vi$$となる。
\(Z_d\)が①から②の状態に変化する\(Vi\)の値は、$$-\frac{\frac{R_f \cdot r_f}{R_f +r_f}}{R_i}Vi - \frac{R_f}{R_f + r_f}V_T = -\frac{R_f}{R_i} Vi$$が成立するときなので、$$Vi = \frac{R_i}{R_f}V_T$$が求まる。よって、\(Vi >(R_i V_T /R_f)\)のとき\(Z_d\)は①の状態、\(Vi < (R_i V_T /R_f)\)のとき②の状態となる。また、\(Vi = R_i V_T/R_f\)のとき、\(Vo = -V_T\approx -0.7\; V\)となる。
3)\(Vi\)が負の値になった場合:このとき\(Vo\)は正になり、遂には\(V_d\)は③の状態になる。このときの等価回路は、図6となり、\(Vo = V_Z\)となる。つまり、\(Vi\)に関係なく出力は一定値のツェナー電圧\(V_Z\)となる。
図1のリミッタ回路では\(V_Z=6.2 \;V\)のツェナーダイオードを使用している。入力信号\(Vi\)を振幅\(1.5 \; V\)、周波数\(10\;Hz\)としたときのシミュレーション結果を図7に示す。出力信号波形\(Vo\)は入力信号\(Vi\)の位相を反転させ、かつ電圧\(V_Z\)と\(-V_T\)の範囲の電圧のみを取り出し、その上下は制限(リミット)されている。





シミュレーション結果(LTspice )
AC-DC変換回路
図8にAC-DC変換回路を示す。この回路では2個の非線形素子のダイオードD1,D2を使用する。ダイオードのモデルは、理想ダイオードモデルとして、順方向バイアスのときは、閾電圧\(0\;V\)、内部抵抗\(0 \;\Omega\)、逆方向バイアスのときは内部抵抗\(\infty \; \Omega\)とする。
図8の回路で、\(Vi >0\)のとき、オペアンプの出力端電圧\(V'o < 0\)(出力電圧\(Vo\)ではないことに注意)となる。また、オペアンプの入力端子(\(-\))の電圧は\(0\;V\)となる(バーチャルショート)ので、ダイオードD2はOFF状態、D1はON状態となる。逆に\(Vi < 0\)のとき、\(V'o >0\)となり、D2はON状態、D1はOFF状態となる。従って、各状態での等価回路は、図9、図10となる。



1)\(Vi > 0\)の場合:図9より、出力は$$Vo = -\frac{R_f}{R_i} Vi$$となる。
2)\(Vi < 0\)の場合:図10より、\(Vo = 0\)となる。
このように交流(AC)の一方の極性の電圧のみを取り出す機能なので、AC-DC変換回路と呼ばれる。ダイオードだけで構成される半波整流回路と同様な動作に見えるが、この回路の場合、増幅機能があることが異なる。
図11は、LTspice によるシミュレーション結果である。図11の上段はダイオードD1、D2に流れる電流の波形である。図11下段は、入力信号\(Vi\)と出力信号\(Vo\)である。\(Vo\)は\(Vi\)に対して位相反転しており半波だけが出力されている。

絶対値検出回路
AC-DC回路と加算回路を組み合わせることで、絶対値検出回路が構成できる。図12に絶対値検出回路を示す。
図13にLTspice によるシミュレーション結果を示す。1段目(U1)がAC-DC回路でその出力が\(Vo1\)で、一方の極性の電圧のみが取り出されている。2段目(U2)は加算回路で、\(Vo1\)が2倍にされ\(Vi\)に加算されている。その結果、出力\(Vo2\)は図13下段の\(Vo2\)(青線)のように\(Vi\)の絶対値となる。
※加算回路の動作原理などは、17. 差動増幅器、ボルテージフォロワ、加算器を参照願います。



