8. ローラン展開(微積分学)
正則な複素関数のテイラー展開
初等関数\(1/(1+x)\)のテイラー展開は、$$\frac{1}{1+x} = \sum_{n=0}^{\infty} (-1)^n x^n \;\;\; \cdots (1)$$である。複素関数の場合、\(f(z)\)を点\(z=a\)の近傍で正則な関数とすると、式(1)の\(x\)が複素数でも成立するので、$$\frac{1}{\zeta -z} = \frac{1}{\zeta -a} \cdot \frac{1}{1 - \frac{z-a}{\zeta -a}} = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(z-a)^n}{(\zeta -a)^{n+1}} \;\;\; \cdots (2)$$である。式(2)の両辺に\(f(\zeta)\)を乗じ、\(C_r(a)\)に沿って項別積分すると、$$\int_{C_r(a)} \frac{f(\zeta)}{\zeta - z} d \zeta = \sum_{n=0}^{\infty} (z-a)^n \int_{C_r(a)} \frac{f(\zeta)}{(\zeta - a)^{n+1}}d \zeta$$となる。\(C_r(a)\)は、点\(z=a\)を正方向に回る半径\(r \to 0\)の円である。従って、コーシーの積分表示を使って、$$f(z) = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{f^{(n)}(a)}{n!} (z-a)^n$$を得る。つまり、\(f(z)\)がテイラー展開できることが分かる。
ローラン展開(特異点周りの展開)
ローラン展開は、複素関数の特異点の近傍での表現方法の一つである。テイラー展開が特定の点の周りで関数を級数として展開するのに対し、ローラン展開はその概念を拡張して、特異点を含む領域についても級数展開を可能にする。
関数\(f(z)\)は1点\(z=a\)の近傍で、その点を除いて正則である。このとき、ローラン展開が可能である。$$f(z) = \sum_{n=-\infty}^{+\infty} c_n(z-a)^n \;\;\; \cdots (3)$$ ここで、係数\(c_n\)は、$$c_n = \frac{1}{2 \pi j} \int_C \frac{f(z)}{(z -a)^{n+1}}dz \;\;\; \cdots (4)$$この積分は、中心 \(a\) を囲む閉じた経路 \(C\)に沿って行う。\(z=a\)は特異点なので、少なくとも1つの\(n \lt 0\)について\(c_n \neq 0\)である。そのようなものが有限個のとき、その特異点を極といい、\(-n\)の最大値をその極の位数という。位数が1なら単純極、2以上の極を多重極という。零でない\(c_n \;\;(n \lt 0)\)が無限にある場合は、真性特異点と呼ばれる。
[例]\(f(z) = e^{1/z}\)のローラン展開を求める。
指数関数のテーラー展開は、$$e^x = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{x^n}{n!}$$なので、\(x=1/z\)を代入して、\(f(z)\)を展開すると$$f(z) = e^{\frac{1}{z}} = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{n!} \left(\frac{1}{z} \right)^n$$となる。これを項ごとに書くと$$f(z) = \frac{1}{z^0} + \frac{1}{z} + \frac{1}{2!}\frac{1}{z^2} + \frac{1}{3!}\frac{1}{z^3} + \cdots$$となる。これは、\(z = 0\) を中心とするローラン展開の形であり、負のべきの項が無限に現れていることが分かる。つまり、\(z=0\)が真性特異点である。
式(4)において\(n=-1\)とすると、$$c_{-1} = \frac{1}{2 \pi j} \int_C f(z) dz$$となる。この\(c_{-1}\)を\(z=a\)における\(f(z)\)の留数といい、\(Res [f(z), a]\)と表す。
留数定理
留数定理は、複素平面上の閉曲線\(C\) に沿った正則関数\(f(z)\)の積分を、特異点での留数を用いて計算する方法である。具体的には、\(f(z)\)が曲線\(C\)に囲まれた領域内に孤立特異点を持ち、その留数がそれぞれ\(Res[f(z),z_k]\)であるとき、$$\oint_C f(z) dz = 2 \pi j \sum_k Res[f(z),z_k]$$
と表せる。ここで、\(\oint_C f(z) dz\)は閉曲線\(C\)に沿った積分である。