30. 電気電子回路図の読み方
電気電子回路図は、いわば「電気の設計図」であり「共通言語」といえる。複雑に見えることもあるが、地図を読むのと同じように、いくつかのルールと作法を知るだけで、読みやすくなる。ここでは、回路図を読む際の基本原則を紹介する。ただし、ここで紹介するルールや作法は絶対的なものではない。各会社、各現場での独自ルールなどもあるので、その都度、確認することが大切である。
1.視線の流れと信号の流れ
一般的に回路図には、世界共通の以下に示す「読み方の方向」がある。
※電気は「高いところから低いところへ」「左から右へ」流れる水のようなイメージで追いかけるとよい。
図1「エミッタ接地増幅回路(LTspice での回路図例)」参照。
・左から右へ:基本的に、信号やエネルギーの入り口(入力)は左側に、出口(出力)は右側に描かれる。
図1では入力信号\(Vi\)を左に、出力信号\(Vo\)を右に配置している。
・上から下へ:高い電圧(電源、VCC)は上に、低い電圧(グランド、GND)は下に配置される。
図1では電圧源\(Vcc\)を上に、グランド(コモン)を下に配置している。

LTspice での回路図例
2.接続のルール(点とラベルの利用)
すべての配線を線でつなぐと回路図が、配線で埋め尽くされていわゆる「スパゲッティ状態」になってしまうため、以下の手法が使われる。
・接続点(ジャンクション):二つの線が交差している場所に「●(黒丸)」があれば接続されている。黒丸がない場合は、立体交差のように「つながっていない」ことを意味する。
図1では、接続点は「青■」となっているが、図2(左)のように「●」を使用することが多い。図2(右)の場合、2本の線が交差しているが「●」が無いので2本の線は未接続とみなす。
・ネットラベル :離れた場所にある線に「+5V」や「RESET」といった同じ名前が付いている場合、それらは回路内でつながっているとみなす。
図1では、「Vcc」が相当し、回路内では接続されているとみなす。
・バス(Bus):複数の信号線を太い一本の線にまとめて描く手法。
図3はCPUから出ているアドレス線(A0~A19)をまとめて一本の太い線で描いた例である。


3.部品記号とリファレンス
通常、部品はJISやIEEEといった規格に基づいた記号で表される。また、それぞれの部品には識別用の名前(リファレンス)が付いている。
※部品記号(回路図記号)は、回路図CADによって異なる場合も多々あり、また、会社独自の回路図記号ルールを使う場合もあるので、社内のマニュアルなどを良く確認することを勧める。
| 記号の頭文字 | 部品の種類 |
| R (Resistor) | 抵抗 |
| C (Capacitor) | コンデンサ |
| L (Inductor) | コイル |
| D (Diode) | ダイオード |
| Q (Transistor) | トランジスタ |
| U / IC | 集積回路 |
図4は、R-C-Lの回路図記号例である。一般に図の左側の記号を使うことが多い。
図5は、GND(グランド)記号の例である。GND記号には、回路の基準電位を示す「回路グランド(SG/AG/DGなど)」と、大地への接続(安全のため)を示す「アース(FG/E/アース記号)」があり、シグナルグランド(SG)、フレームグランド(FG)、デジタルグランド(DG)、アナロググランド(AG)など、役割に応じて様々なシンボルや名称で使い分けられるが、根本は「基準」を示す記号群である。
図6は電子部品記号の一例である。トランジスタ(BJT)やFETなどは矢印の向きで種類(NPN/PNPなど)を見分けることもできるが、電子部品は多種多様なので、データシートで確認することが重要である。
図7は論理回路記号の一例である。一般にMIL記法とJIS/IEC記法が使われる。JIS/IEC記法が推奨記法であるが、CADなどでは現在もMIL記法が主に使われている場合もある。論理回路記号は慣れてしまえば、簡単なので好きな方を使えば良いと思う。また、近年のディジタル回路設計は、ハードウェア記述言語(HDL)を用いた論理設計が主流なので、学習以外では論理回路記号の出番は少ないと思われる。




4.機能ブロックでの理解
回路図全体を端から端まで一度に見るのは大変である。「電源部」「制御部(CPU部)」「インターフェース部」といったブロック単位で、つまり「意味のある塊(機能ブロック)」として捉えることで、読みやすくなる。
※読み方としては、「電源部」を探してどこからエネルギーが来ているかを確認し、次に「入力」から「出力」へ信号がどう変化しているかを追うのが定石である。
・電源部:電池やアダプタから安定した電圧/電流を作るブロック。
・制御部:CPUなどが中心となり、判断を下すブロック。
・インターフェース部:CPUなどの本体が、外部のデバイス、人間、あるいは他の基板と情報をやり取りするためのブロック。
・入力部:センサやスイッチなど、情報を入力するブロック。
・出力部:モーターやLEDなど、実際に動かすブロック。
※最近の電子機器はCPUが多様されているので、上記はそれを基本にし記載している。
5.データシートとの照合
回路図だけでは「その部品の端子の並び」や「具体的な性能」は分からない。 回路図にある部品のメーカー、型番などを検索し、データシートを併読することで、回路図に描かれた1つ1つの線の「本当の意味」が理解できるようになる。
※ただし、データシート自体に誤りがある場合、部品自体にバグがある場合もあるので、鵜呑みにせず試作を通して動作などを詳細に検討する必要がある。特に製品開発に携わっている技術者は十分に注意して欲しい。(最近購入したTVの動作バグには、早くも故障かと焦った。重大なバグでは無かったので再起動で済んだが--;)

