7-1. BJTの静特性

バイポーラトランジスタの静特性に関して、説明を追加する。

※ここでは、2SC1815(東芝トランジスタ シリコンNPNエピタキシャル形)の規格表を基にバイポーラトランジスタの静特性を考える。

入力特性(\(I_B-V_{BE}\)特性)

バイポーラトランジスタ(BJT)入力特性(\(I_B- V_{BE}\) 特性)を図1に示す。この特性は、ダイオードの順方向特性と類似しているが、この特性がエミッタ接地回路においてベース電圧制御ではなく、ベース電流制御として扱われる理由は、トランジスタの増幅原理に基づいて次のように考えられる。

図1 \(I_B-V_{BE}\)特性

\(I_B -V_{BE}\)特性は、ベース・エミッタ接合(PN接合)の順方向特性であり、ダイオードの指数関数的な特性とほぼ同じ形になる。BJTの増幅原理は、ベース電流 \(I_B\)を\(\beta\)倍(\(\beta\):電流増幅率)することでコレクタ電流\(I_C\)を制御することにある(\(I_C \approx \beta I_B\))。入力特性の曲線は急峻で非線形性が強いため\(V_{BE}\)をわずかに変化させるだけで\(I_B\)が大きく変動し、結果として\(I_C\)も大きく変動してしまう。この非線形な関係のため、増幅回路の設計では、安定して線形な制御を行うために、\(I_B\)を直接制御する方が容易であり、電流制御素子として扱われる。
シリコンBJTにおいて、ベース・エミッタ間電圧\(V_{BE}\)が約 0.6 V~0.7 V を超えたときに急激に\(I_B\)が流れ始める。これはPN接合のビルトインポテンシャルの観点から考えることができる。\(V_{BE}\)はベース・エミッタ接合に順方向電圧として印加される。PN接合には、キャリアの拡散によって生じるビルトインポテンシャル\(V_{\text{built-in}}\)(内蔵電位、拡散電圧)約\(0.7 \text{ V}\)が存在し、これが空乏層の電位障壁となる。印加電圧 \(V_{BE}\)がこの電位障壁を打ち消し、\(V_{BE} \approx V_{\text{built-in}}\)となると、多数キャリアが障壁を乗り越えて拡散できるようになり、指数関数的に大きな電流\(I_B\)が流れ始めることになる。
入力特性の温度依存性の特徴として、\(V_{BE}\) を一定に保つと、温度が上昇するにつれてベース電流 \(I_B\) が増加する。これは温度上昇により真性キャリア密度が増加し、接合を流れる逆飽和電流が指数関数的に増大するためである。これにより、PN接合の順方向特性曲線が低温側から高温側へシフトする。この逆飽和電流の温度依存性により、\(I_B\)を一定に保つと、\(V_{BE}\)は温度に対して約 \(-2 \text{ mV/}^\circ\text{C}\)の負の温度係数で変化する。この線形に近い変化を利用することで、\(V_{BE}\) の変化を検出して温度を測定する温度センサが実現できる。

出力特性(\(I_C-V_{CE}\)特性)

\(I_B\)をパラメータとした場合の出力特性(\(I_C -V_{CE}\) 特性)を図2に示す。
\(I_B \approx 0\)の領域を遮断領域カットオフ領域)とよぶ。両接合とも逆バイアス(またはゼロバイアス)となり、\(I_C \approx 0\)となる。\(V_{CE}\)が比較的大きい領域を能動領域とよび、ベース・エミッタ接合を順バイアスコレクタ・ベース接合が逆バイアスとする。\(I_C \approx \beta I_B\)であり、電流源として機能する増幅領域である。

図2 \(I_C-V_{CE}\)特性

\(V_{CE}\) が小さい(通常 \(V_{CE} < 0.2 \text{ V}\)程度)領域を飽和領域と呼ぶ。両接合とも順バイアスとなる。 \(I_C\) は \(I_B\)に依存せず、外部回路によって制限されるスイッチのオン状態として機能する領域である。
能動領域において、\(I_C\)が \(V_{CE}\) の変化に対してほとんど変化しないことは、コレクタ・ベース接合の逆方向バイアス空乏層幅の関係から次のように考えられる。能動領域では、コレクタ・ベース接合が逆方向バイアスされている。この逆バイアスにより、ベースからエミッタへ注入された電子(NPNの場合)は、コレクタ・ベース接合の空乏層の強い電界に引き込まれ、コレクタへ到達する。\(V_{CE}\)が変化しても、エミッタからベースへのキャリア注入量(すなわち \(I_B\))が一定であれば、\(I_C\)はほぼ一定に保たれる。これは、コレクタ・ベース接合の逆方向バイアスがキャリアの「収集」に焦点を当てており、電流の「生成」には影響を与えないからである。
能動領域で\(V_{CE}\)を大きくしていくと、\(I_C\)がわずかに増加する現象をアーリ―効果とよぶ。この現象による、BJTの出力抵抗を有限にする理由は、ベース幅の実効的な減少という観点から考えることができる。\(V_{CE}\)が増加すると、コレクタ・ベース接合の逆バイアス電圧が深くなる。これにより、コレクタ・ベース接合の空乏層幅が拡大し、この空乏層がベース領域に食い込むことで、キャリアが拡散するベース領域の実効的な幅が減少する(ベース幅変調)。ベース幅が狭くなると、ベース内のキャリア濃度勾配が急になり、結果としてエミッタからベースへのキャリア注入効率が向上し、コレクタ電流\(I_C\)がわずかに増加する。この\(I_C\)の増加傾向があるため、BJTの出力特性は厳密には水平ではなくなり、有限の出力抵抗を持つことになる。

伝達特性

BJTの直流電流増幅率\(h_{FE}\) は、能動領域において定義され、定義式は、$$h_{FE} = \frac{I_C}{I_B}$$である。\(h_{FE}\)は\(I_C\)が極端に小さい領域(低電流域)と、極端に大きい領域(高電流域)で低下する傾向がある。\(I_C\)が小さい(\(I_B\)が小さい)領域では、ベース・エミッタ接合の空乏層内でのキャリアの再結合電流の割合が、ベース領域を通過してコレクタへ到達する電流\(I_C\)に比べて相対的に大きくなる。この再結合電流は\(I_B\)の一部だが \(I_C\)に寄与しないため、\(h_{FE} = I_C/I_B\)が低下する。

図3 \(h_{FE}-I_C\)特性

\(I_C\)が大きい領域では、エミッタからベースへ注入される多数キャリア(NPNなら電子)の濃度が、ベース領域の元々の不純物濃度(ホール濃度)に匹敵するか超えるようになる(高注入効果)。これにより、エミッタ注入効率が低下し、ベース領域の不純物濃度が実効的に高くなったような状態になり、結果として\(h_{FE}\)が低下する。