15. 一般化最小分散制御のロバスト性
サーボ型一般化最小分散制御(GMVC)は、制御対象の出力が目標値に追従するように、出力の分散を最小化する制御方式である。従来の最小分散制御(MVC)に比べて、「目標追従性」が明示的に設計目的に組み込まれている。サーボ型GMVCは本質的にはモデルベースの制御方式で、以下の特徴からある程度のロバスト性を持つ。
・出力フィードバック構造:モデル不確かさがある程度許容される。
・目標追従と外乱抑制のバランス:外乱やモデル誤差が存在しても、リファレンス追従性を確保できるよう設計されている。
・ウェイト付きコスト関数:調整可能なパラメータにより、ノイズ感度と応答性をトレードオフ可能。
ただし、構造的不確かさには脆弱であるため、ロバスト設計や適応的な手法との組み合わせが有効とされている。
15-1. パラメータ誤差がある場合の目標値追従特性
サーボ型一般化最小分散制御系において、目標値を単位ステップとしたときに生じる定常偏差を求めよ。ただし、設計に用いる数学モデルと実際の制御対象との間にパラメータ誤差があるとする。
解答例:制御対象は、真のパラメータA(q^{-1}),\;B(q^{-1}),\;C(q^{-1})からなる式(1)のモデルを用いる。A(q^{-1})y_k = q^{-j_m}B(q^{-1})u_k + C(q^{-1})e_k \\ A(q^{-1}) = 1 + a_1 q^{-1} + a_2 q^{-1} + \cdots + a_n q^{-n} \\ B(q^{-1}) = b_0 + b_1 q^{-1} + b_2 q^{-2} + \cdots + b_m q^{-m} \\ C(q^{-1}) = 1 + c_1 q^{-1} + c_2 q^{-2} + \cdots + c_l q^{-l} \;\;\; \cdots (1)これに対して、制御器の設計には推定パラメータA'(q^{-1}), \; B'(q^{-1}), \; C'(q^{-1})を使う。従って、操作量u_kはu_k = \frac{1}{\Delta}\cdot \frac{C'(q^{-1}) R(q^{-1})w_{k + j_m} - G'(q^{-1}) y_k}{B'(q^{-1}) F'(q^{-1}) + C'(q^{-1}) S(q^{-1})} \;\;\; \cdots (2)となる。(14. サーボ型一般化最小分散制御 参照)式が煩雑になるので、以降(q^{-1})は省略する。
操作量u_kを制御対象に代入すると、\Delta A(B'F' + C'S) y_k = q^{-j_m}B(C' R w_{k+j_m} - G' y_k) + \Delta C (B'F' + C'S)e_k \\ \left\{\Delta A(B'F' + C'S) + q^{-j_m}B G' \right\} y_k = BC'R w_k + \Delta C(B'F' + C'S)e_k \\ (\text{※} \quad q^{-j_m} w_{k + j_m} = w_k)となる。PC' = \Delta A'F' +q^{-j_m}G'より、q^{-j_m}BG' = BPC' - \Delta BA'F'と変形し代入すると、\left\{\Delta A(B'F' + C'S) + BPC' - \Delta BA'E'\right\}y_k \\ = BC'Rw_k + \Delta C(B'F' + C'S)e_k 従って、外部入力w_kとe_kから出力y_kまでの特性は、y_k = \frac{BC'R}{\Delta A(B'F' + C'S) + B(PC' - \Delta A'F')}w_k \\ + \frac{\Delta C(B'F' + C'S)}{\Delta A(B'F' + C'S) + B(PC' - \Delta A'F')}e_kとなる。時刻kにおける制御偏差err_kは、目標値w_kと制御量y_kとの差で定義し、err_k = w_k - y_kである。e_kは平均値0の白色雑音を仮定しているので、制御偏差err_kの期待値は、E[err_k] = \frac{\Delta A(B'F' + C'S) + B(PC' - \Delta A'F') - BC'R}{\Delta A(B'F' + C'S) + B(PC' - \Delta A'F')}w_k \\ = \frac{\Delta \left\{A(B'F' + C'S) - A'BF' \right\} + BC'(P-R)}{\Delta A(B'F' + C'S) + B(PC' - \Delta A'F')} w_kとなる。目標値w_kが単位ステップとしたときの定常偏差の期待値E[err_\infty]を最終値定理を使って求めると、E[err_\infty] = \lim_{k \to \infty} E[err_k] \\ = \lim_{q \to 1} (1-q^{-1})\frac{\Delta \left\{A(B'F' + C'S) - A'BF' \right\} + BC'(P-R)}{\Delta A(B'F' + C'S) + B(PC' - \Delta A'F')} \frac{q}{q-1} \\ = \lim_{q \to 1} \frac{\Delta \left\{A(B'F' + C'S) - A'BF' \right\} + BC'(P-R)}{\Delta A(B'F' + C'S) + B(PC' - \Delta A'F')} \\ = \frac{P(1) - R(1)}{P(1)}となる。従って、重み多項式の設定条件P(1) = R(1)を満足すれば、パラメータ誤差がある場合も定常偏差なく目標値に追従できる。
15-2. パラメータ誤差がある場合の外乱抑圧特性
サーボ型一般化最小分散制御系において、単位ステップ状の外乱が制御対象の入力側に印可されたときの定常偏差を求めよ。ただし、設計に用いる数学モデルと実際の制御対象との間にパラメータ誤差があるとする。
解答例:制御対象は、真のパラメータA(q^{-1}),\;B(q^{-1}),\;C(q^{-1})からなる式(1)のモデルを用いる。これに対して、制御器の設計には推定パラメータA'(q^{-1}), \; B'(q^{-1}), \; C'(q^{-1})を使う。外部入力のw_kとe_kは0として、外乱d_kから出力y_kまでの伝達特性を求める。操作量は、式(2)より、u_k = -\frac{1}{\Delta} \cdot \frac{G'}{B'F' + C'S} y_kとなる。また、出力y_kは、A y_k = q^{-j_m}B(u_k + d_k)である。この式にu_kを代入して整理すると、\Delta A(B'F' + C'S)y_k = q^{-j_m}B\left\{-G'y_k + \Delta (B'F' + C'S)d_k\right\} \\ \left\{\Delta A(B'F' + C'S) + q^{-j_m}B G'\right\}y_k = q^{-j_m} \Delta B(B'F' + C'S)d_k\right\}となる。単位ステップ外乱の制御対象の入力側への印可による出力への定常的な影響は、最終値定理より、y_\infty = \lim_{k \to \infty} y_k = \lim\_{q \to 1} (1-q^{-1}) \frac{q^{-j_m} \Delta B(B'F' + C'S)}{\Delta A(B'F' + C'S) + q^{-j_m}B G} \cdot \frac{q}{q-1} \\ = \lim_{q \to 1} \frac{q^{-j_m} \Delta B(B'F' + C'S)}{\Delta A(B'F' + C'S) + q^{-j_m}B G} \\ = \frac{0}{B(1)F'(1)} = 0となる。従って、パラメータ誤差がある場合も任意の重み多項式において、ステップ状の外乱が制御対象の入力側に印可されても定常偏差は生じない。