8-2. エネルギーとハミルトニアン
ハミルトニアンは、「物理系のエネルギーを表し、運動を決定する最も基本的な関数」であり、解析力学から量子力学・統計力学に至るまで幅広く適用される概念である。
エネルギー
エネルギーとは、物理系が持つ 運動の能力を表す量 であり、一般に以下の2種類に分けられる。
1) 運動エネルギー
物体が持つ運動に関連するエネルギーは、T = \frac{1}{2} m v^2である。
一般化座標qを用いると、T = \frac{1}{2} m \dot{q}^2と表せる。
2) ポテンシャルエネルギー
力学的な位置エネルギーは、U(q)と表す。
ポテンシャルエネルギーの例として、U = \frac{1}{2} k q^2 \;\;\text{バネ力(フックの法則)} U=mgh \;\; \text{重力場} がある。(この他、電気ポテンシャルエネルギー、化学ポテンシャルエネルギーなどがある。)
ハミルトニアン
ハミルトニアンは、エネルギーと関連する関数として式(1)で定義される。ハミルトニアン は、系の状態を座標 q_i と運動量 p_iを使って表す関数で、力学系の全エネルギー を表す。
ハミルトニアンの定義を式(1)に示す。H(q_i, p_i, t) = \sum_i \dot{q_i} p_i - L(q_i, \dot{q_i}, t) \;\;\; \cdots (1)ここで、H(ハミルトニアン)は系のエネルギーに対応する関数、L(ラグランジアン)はL = T - U(運動エネルギー とポテンシャルエネルギーの差)、q_i(一般化座標)は座標変数、\dot{q_i}は一般化速度、である。
また、p_i = \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_i}は一般化運動量である。
ハミルトニアンは 力学的エネルギー(運動エネルギー + ポテンシャルエネルギー)と一致する場合が多い。ただし、これはラグランジアンが 速度に関して2次形式 であり、時間に陽に依存しない場合に限る。
ラグランジアンは、運動エネルギー Tと ポテンシャルエネルギーUの差で、L = T - Uで、ハミルトニアンは、H = \sum_i \dot{q_i} p_i - Lである。ここで、運動エネルギーTは、T = \frac{1}{2}\sum_i m_i \dot{q_i}^2である。ポテンシャルエネルギー Uは速度に依存しないと仮定し(典型的な保存力の場合)、一般化運動量 を計算すると、p_i = \frac{\partial L}{\partial \dot{q_i}} = \frac{\partial (T - U)}{\partial \dot{q_i}} = \frac{\partial T}{\partial \dot{q_i}}運動エネルギーは速度の2次形式なので、p_i = m_i \dot{q_i}となる。これをハミルトニアンの定義 に代入する。\dot{q_i} p_iを計算すると\dot{q_i} p_i = \dot{q_i}(m_i \dot{q_i}) = m_i \dot{q_i}^2となる。よって、ハミルトニアンは、H = \sum_i m_i \dot{q_i}^2 - (T - U)ここで、運動エネルギーTは、T = \frac{1}{2} \sum_i m_i \dot{q_i}^2なので、H = 2T - (T - U)=T+Uが得られる。以上より、ハミルトニアンは全エネルギー(運動エネルギー + ポテンシャルエネルギー) になることが分かる。
・ハミルトニアンの具体例
1次元の質点の運動を考える。運動エネルギーは、T = \frac{1}{2} m \dot{x}^2であり、ポテンシャルエネルギーは、U(x)とする。このとき、ラグランジアンは、L = T - U = \frac{1}{2} m \dot{x}^2 - U(x)であり、一般化運動量は、p = \frac{\partial L}{\partial \dot{x}} = m \dot{x}である。ハミルトニアンは、H = \dot{x} p - L = \dot{x}(m \dot{x}) - \left( \frac{1}{2} m \dot{x}^2 - U(x) \right)で、整理するとH = \frac{p^2}{2m} + U(x)となる。これは、運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和になっている。
ハミルトンの運動方程式
ハミルトンの運動方程式は、古典力学における運動方程式の一種であり、ラグランジュ形式の力学をさらに発展させたものである。ハミルトン形式では、系の状態を一般化座標と一般化運動量(q,p)という2つの変数で記述し、ハミルトニアンという関数を用いて運動方程式を表す。ハミルトニアンを用いると、式(2)に示すハミルトンの運動方程式 が得られる。\frac{dq_i}{dt} = \frac{\partial H}{\partial p_i}, \quad \frac{dp_i}{dt} = -\frac{\partial H}{\partial q_i} \;\;\; \cdots (2)式(2)の2つの式は、ラグランジュ方程式と同じ運動を記述しているが、(q, p)の 正準変数 を使うことで、より対称的な形式となる。
式(2)の第1式 \frac{dq_i}{dt} = \frac{\partial H}{\partial p_i}の左辺は位置の時間変化を、右辺は運動量に関する勾配となっており、運動量と速度の関係を表している。例えば、自由粒子の場合であれば、\frac{\partial H}{\partial p} = \frac{p}{m} = vとなる。
式(2)の第2式 \frac{dp_i}{dt} = -\frac{\partial H}{\partial q_i}の左辺は、運動量の時間変化(すなわち力)を、右辺は位置に関する勾配となっており、これは実質的にニュートンの運動方程式そのもので\frac{dp}{dt} = -\frac{\partial U}{\partial q} = Fである。
つまり、ハミルトン方程式は「運動量と位置の連動」をエネルギー関数から直接計算する枠組みとなっている。